「親が亡くなって、アパートを相続することになった」「実家とは別に、賃貸中のマンションも引き継ぐことになった」…。賃貸物件の相続は、財産が増えるうれしい面もある一方で、入居者への責任もそのまま引き継ぐことになります。
これまで管理を担っていた親や親族が抜けたタイミングは、入居者の不満が一気に表面化しやすく、実はクレームやトラブルが起こりやすい局面です。「家賃はどこに払えばいいの?」「前の大家さんは直してくれなかった」と、相続した直後から連絡が来ることも少なくありません。
この記事では、中古マンションの売買・賃貸の実務に携わる不動産業者の立場から、賃貸物件を相続した際にクレームが起こりやすい理由と具体例、正しい対処法、そして最初に押さえたい手続きまで、順を追って解説します。
この記事を読むとわかること
- 賃貸物件を相続すると何を引き継ぐことになるか
- 相続後すぐに必要な手続き(相続登記・家賃・相続放棄など)
- 相続後にクレームが起こりやすい理由
- 実際に多いクレームの具体例
- クレームを増やさないための正しい対処法
こんな方におすすめです
- 賃貸中のアパート・マンション・戸建てを相続した(する予定の)方
- 入居者からの連絡にどう対応すればいいか不安な方
- 持ち続けるか、売るか、管理を任せるかで迷っている方
賃貸物件を相続すると何を引き継ぐのか
賃貸物件を相続すると、建物や土地といった不動産そのものだけでなく、賃貸借契約上の「貸主としての立場」もそのまま引き継がれます。相続した瞬間から、あなたは入居者にとっての「大家」であり、契約上の責任を負う立場になります。
具体的に引き継ぐ主な責任は、次のとおりです。
- 建物・設備の維持管理(民法上、貸主には賃貸物の使用に必要な修繕をする義務があります)
- 設備不具合への対応
- 入居者からのクレーム対応
- 敷金・更新・解約時の精算(預かっている敷金の返還義務も引き継ぎます)
- 管理会社との契約関係
これらを理解しないまま相続すると、クレーム対応で大きなストレスを抱えることになります。
相続した賃貸物件の「家賃」は誰のもの?
相続人が複数いて、遺産分割がまだ終わっていない場合、「その間の家賃は誰が受け取るの?」という疑問が出てきます。
最高裁判所の判例(平成17年9月8日)では、相続開始から遺産分割までの間に生じた賃料は、遺産とは別の財産として、各相続人が法定相続分に応じて確定的に取得するとされています。つまり、あとから遺産分割で決まった内容にさかのぼって変わるものではない、という考え方です。
とはいえ、実際には、入居者が「誰の口座に払えばいいのか」迷ってしまいます。相続人のあいだで受け取り口座を一本化し、精算のルールを決めておくのがトラブル防止のコツです。個別の事情で扱いが変わることもあるので、迷ったときは弁護士・司法書士などの専門家に相談してください。
相続後すぐに押さえたい手続きと期限
クレーム対応の前に、まず相続そのものの手続きを確認しておきましょう。期限があるものは、とくに注意が必要です。
| 手続き | 期限・ポイント |
|---|---|
| 相続放棄・限定承認を検討 | 自分が相続人になったと知った時から3か月以内。決められない場合は家庭裁判所に期間の伸長を申し立てできます |
| 相続税の申告・納付(対象の場合) | 相続の開始を知った日の翌日から10か月以内 |
| 相続登記(名義変更) | 相続で不動産を取得したと知った日から3年以内(令和6年4月1日から義務化) |
| 入居者・管理会社への連絡 | 期限の定めはありませんが、早ければ早いほど混乱を防げます |
相続登記は義務になっています
令和6年(2024年)4月1日から、相続登記は義務になりました。不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記の申請をしなければならず、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になる可能性があります。
制度が始まる前に相続していて、まだ登記していない物件も対象です。この場合は、令和9年(2027年)3月31日までが期限となっています。すぐに登記ができない事情があるときは、「相続人申告登記」という簡易な制度で義務を果たせる場合もあります(ただし、売却や担保に入れる際は、あらためて相続登記が必要です)。
相続放棄を考えているなら、家賃の扱いに注意
相続放棄は、プラスの財産もマイナスの財産もまとめて手放す手続きです。相続財産を処分すると、相続を承認したとみなされる場合があります。放棄を検討している間に、家賃を受け取る・契約を更新するといった行為をどう扱うかは、事前に専門家へ確認してから動くのが安心です。
相続税の評価も確認を
賃貸中の建物の敷地は、国税庁の評価方法(貸家建付地)により、自分で使う土地より評価が低くなる場合があります。相続税の申告が必要かどうかは、税理士に確認しておきましょう。
賃貸相続でクレームが起こりやすい3つの理由
相続した賃貸物件でクレームが増えやすいのには、共通した理由があります。
| # | 理由 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 管理が長年放置されているケースが多い | 高齢の親が所有していた物件では、最低限の修繕しかしていなかったケースが少なくない |
| 2 | 相続人が賃貸経営の知識を持っていない | 不動産経営の経験がないと、クレーム対応が後手に回りやすい |
| 3 | 管理会社との関係が曖昧なまま相続が進む | 「誰が判断するのか」「誰が責任を持つのか」が不明確になり、対応が混乱する |
さらに、相続人が複数いる場合は、修繕を行うかどうか、費用を誰が負担するかで意見が分かれ、対応が遅れることもあります。対応の遅れは、入居者の不信感につながりやすいポイントです。
相続をきっかけに入居者が不満を表に出し、クレームが一気に増えることもあります。
相続後に多いクレームの具体例
相続した賃貸物件では、次のようなクレームが特に多く見られます。それぞれの対処のヒントもあわせてご紹介します。
設備トラブルに関するクレーム
エアコンの故障、給湯器の不具合、水漏れなどは、相続後すぐに起こりやすいクレームです。「前の大家は直してくれなかった」「何年も我慢していた」と言われるケースもあります。
対処のヒント:まず状況を写真つきで記録してもらい、緊急性(水漏れ・給湯停止など)の高いものから優先して手配します。修理が間に合わない場合でも、「いつまでに対応するか」を伝えるだけで、入居者の不安はかなり軽くなります。
建物の老朽化に関するクレーム
外壁のひび割れ、屋根からの雨漏り、共用部の劣化など、建物全体に関わるクレームは修繕費も高額になりがちです。
対処のヒント:見積もりは1社だけでなく、複数社から取るのが基本です。大規模な修繕は、資金計画を立てたうえで、優先順位をつけて進めましょう。
騒音・近隣トラブルのクレーム
入居者同士の騒音問題やゴミ出しルール違反など、管理面のクレームも相続後に増えやすい傾向があります。
対処のヒント:当事者への直接の注意は、トラブルをこじらせやすいものです。まずは全入居者あての注意喚起の書面を掲示・配布し、解決しない場合は管理会社に間に入ってもらいましょう。
敷金・原状回復を巡るクレーム
退去時に「敷金が返ってこない」「原状回復費が高すぎる」といったクレームは、相続人が対応を誤ると大きなトラブルに発展します。
民法621条では、通常の使用による損耗や経年変化は、借主の原状回復義務に含まれないと定められています。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」でも、原状回復は「借りた当時の状態に戻すこと」ではなく、借主の故意・過失や通常の使用を超える使い方による損耗を直すことと整理されています。なお、このガイドラインに法的な拘束力はなく、実際の取り扱いは契約内容が基本になります。
対処のヒント:相続前に入居していた方の敷金は、いくら預かっているのかを契約書で必ず確認しておきましょう。前の大家さん(被相続人)が預かった敷金の返還義務も、相続人が引き継ぐ点に注意が必要です。
「家賃の払い先がわからない」という混乱
相続直後に意外と多いのが、「今月の家賃を誰に、どの口座へ払えばいいのか」という入居者からの問い合わせです。連絡が行き届かないと、家賃の支払いが遅れたり、間違った口座へ振り込まれたりする原因になります。
クレームを増やさないための正しい対処法
まずやってはいけないこと
- 感情的に対応する:クレームを受けた際に感情的になると、問題は必ず悪化します。相続したばかりでも、大家として冷静な対応が求められます。
- 返答を先延ばしにする:「後で考える」「管理会社に任せきり」にして返答を遅らせると、入居者の不信感が強まります。
- 口約束だけで済ませる:修繕や対応内容を口頭だけで約束すると、「言った・言わない」のトラブルになりやすいため注意が必要です。
正しい対処法
- 相続後すぐに物件状況を把握する:建物・設備の現状を把握し、修繕が必要な箇所を洗い出すことが最優先です。専門業者や管理会社に点検を依頼するのも有効です。
- 管理会社との契約内容を見直す:相続前の管理契約が現在の状況に合っていない場合もあります。管理範囲やクレーム対応の役割分担を明確にしましょう。三郷市で賃貸管理を任せるならここがおすすめ!駅近不動産会社!や【吉川市】賃貸管理会社のおすすめ3選|駅近・老舗を実際に調べて比較のように、地域の管理実績がある不動産会社に相談し、対応体制を整えるのも一つの方法です。
- 入居者へ「相続の挨拶」を行う:相続後は、書面で入居者へ挨拶と連絡先の案内を行うと、信頼関係を築きやすくなります。「新しい大家が誰なのかわからない」状態は不安とクレームの原因になります。
- 修繕ルールを明確に伝える:どこまでが貸主負担で、どこからが入居者負担なのかを明確に説明することで、不要なクレームを防げます。
クレームを受けたときの基本の5ステップ
- 受け付ける:まずは話を最後まで聞き、内容を記録します(日時・内容・連絡先)
- 状況を確認する:写真や現地確認で、事実を把握します
- 対応方針を決める:貸主負担か、入居者負担か、契約書と照らして判断します
- いつまでに対応するかを伝える:期限の目安を示すだけでも、印象が大きく変わります
- 書面やメールで残す:対応内容と結果を、記録として残しておきます
相続後は空室リスクへの備えも重要です。入居者対応と並行して、入居率95%の賃貸管理会社が実践している空室対策チェック事項やお金をかけずに1カ月で満室にするおすすめ空室対策5選のような具体的なチェックポイントを参考に、退去が出た際の対策も早めに検討しておくと安心です。
賃貸物件を相続したら最初にやることチェックリスト
- □ 賃貸借契約書・管理委託契約書・図面を探して確認した
- □ 入居者の一覧(部屋番号・家賃・契約期間・預かり敷金)を整理した
- □ 相続人のあいだで、家賃の受け取り口座と精算ルールを決めた
- □ 入居者へ、書面で相続の挨拶と新しい連絡先・振込先を知らせた
- □ 管理会社に連絡し、対応の役割分担を確認した
- □ 建物・設備の状態を点検してもらった
- □ 相続登記・相続税の期限をカレンダーに入れた
- □ 持ち続けるか、売るか、管理を任せるかの方向性を考え始めた
賃貸を相続したくない場合の選択肢
賃貸物件の相続は、必ずしも「持ち続ける」必要はありません。
- 相続放棄:ただし、他の財産もまとめて放棄することになります。期限は原則3か月です
- 売却して現金化:入居者がいる状態のまま売る方法(オーナーチェンジ)と、退去後に売る方法があります
- 管理を専門会社に任せる:クレーム対応や家賃管理を任せることで、負担を大きく減らせます
- 建て替えや用途変更:資金や入居者との契約の関係で、ハードルは高めです
状況に応じた選択肢があります。クレーム対応に大きな負担を感じる場合は、早めに専門家へ相談することが重要です。売却を検討する場合は、「両手仲介」「囲い込み」とは?2025年法改正でどう変わった?中古マンション購入で後悔しないための見分け方で解説しているような不動産会社選びの視点も、あわせて押さえておくと安心です。
よくある質問
Q. 賃貸物件を相続したくない場合はどうすればいいですか?
相続放棄という選択肢があります。ただし相続放棄は他の資産も含めて相続権を手放すことになるため、慎重な判断が必要です。また、期限は原則として相続を知った時から3か月です。売却や管理会社への委託など、持ち続けながら負担を減らす方法もあります。
Q. 相続後すぐに何をすればいいですか?
まずは建物・設備の現状を把握することが最優先です。あわせて管理会社との契約内容を確認し、入居者へ相続の挨拶と新しい連絡先を知らせると、その後のクレーム対応がスムーズになります。
Q. 相続登記をしないとどうなりますか?
令和6年4月1日から相続登記は義務になり、正当な理由なく期限内(取得を知った日から3年以内)に申請しないと、10万円以下の過料の対象になる可能性があります。売却や担保設定をする際にも登記が必要です。
Q. 遺産分割が終わる前の家賃は、誰が受け取れますか?
判例では、遺産分割までの間に生じた賃料は、各相続人が法定相続分に応じて取得するとされています。ただし、実際の運用は相続人どうしの話し合いが重要なので、トラブルを避けるために専門家へ相談しておくと安心です。
Q. クレーム対応を管理会社に任せることはできますか?
可能です。ただし「誰が最終的に判断するのか」を曖昧にしたまま任せると、かえって対応が混乱することがあります。役割分担を明確にしたうえで委託することが大切です。
Q. 前の大家さんが預かっていた敷金はどうなりますか?
賃貸借契約上の貸主としての立場とあわせて、敷金の返還義務も引き継ぐことになります。入居者ごとに預かり額を確認し、退去時に精算できるよう整理しておきましょう。
まとめ|賃貸相続ではクレーム対応も一緒に引き継ぐ意識を持とう
賃貸物件の相続は、資産を引き継ぐと同時に「責任」も引き継ぐことを意味します。クレームは避けられないものですが、正しい知識と冷静な対応があれば、大きなトラブルに発展することはありません。
- 相続した瞬間から、貸主としての責任(修繕・敷金返還など)も引き継ぐ
- 相続放棄は3か月、相続登記は3年以内など、期限のある手続きを先に確認する
- 家賃の振込先や連絡先は、入居者へ早めに書面で知らせる
- クレームは記録・期限の提示・書面化の3点で、冷静に対応する
相続した賃貸物件で悩んでいる方は、まず現状を正確に把握し、無理をせず専門家や管理会社の力を借りながら対応していきましょう。
※この記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、個別の事案についての法的・税務的なアドバイスではありません。法令や制度は改正されることがあるため、具体的な手続きは弁護士・司法書士・税理士などの専門家や、法務局・家庭裁判所などの公的機関でご確認ください。
